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私は初めて死んでみた。
体は若く大学時代くらいになっていた。
見渡せば広い空間におびただしい紙の世界
膨大な紙は白紙ではなく、小さな字で細かく何か書かれていた。眼鏡を持ってこられなかったのでよく見えない。
こんなところで私にどうしろと?
待てど暮らせど立ったり座ったりしても何も変化がない。
シの世界は永遠に退屈の連続なのか?
どれくらい時間が経っただろう。
いきなりちょっと聞き覚えのある40代ぐらいの女性の声がした。
「ひさしぶり、誰だかわかる?」
「う~ん 分からない」
「早織、声、おばさんになったでしょう?」
「そんなこと、そんなことないよ」
「嘘つき」
あ、しまった。
「相変わらず嘘が下手ね」
「ごめん」
「今日は言いたいことがあって来たの、といっても早織もやすおくんの姿見えてないけど」
「何?」
「もう早織のこと忘れて」
「は?」
「知ってるんだから、別れてからずっとずっと早織のことばかり考えてたでしょう?」
「うん」
「人の思考って伝播するの、その思いが強ければ強い程、やすおくんが早織のこと思い出したら、その分早織もやすおくんのこと思い出してしまうの」
そうなのか 私は知らなかった。
「はっきり言って迷惑なの、早織はもう結婚して子供もいるんだから、もうやすおくんは過去の人なの、忘れたいの、やすおくんは早織のこと、『名前を付けて保存』したいんだろうけど、早織はもう『上書き保存』したの、新しい生活があるの、幸せで忙しくて大変なのよ、やすおくんのこともう片時だって思い出してる暇なんてないの。お願い忘れて、あなたも他の誰かと幸せになって」
「でも僕は死んだんだよ」
「死なせはしないわ絶対、早織のことなんかで死んだりしないで!大迷惑よ」
そうなのか・・・。
「早織だってつらかった、寂しかった、早織が正しいとは言わない、でももう終わったの、早織とやすおくんは終わったの」
「でも僕はこの先何を希望に・・・」
「甘えないで!」
「早織もやすおくんもいい大人よ、おままごとは終わったの、早織は大人の妻として母としての役目、暮らしがあるの、やすおくんだってないわけないでしょう?無いなら見つけて!お願い、早織を今でも愛してるなら、早織を忘れてやり直して幸せになって!」
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