少しの老いと孤独

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いやある。僕はもう疲れた。君のことを思い続けて孤独に耐える生活に疲れ果ててしまったのだ。 死ねば孤独も将来の不安もこれからもっと老いてゆく自分を感じることなく、自分史に終止符を打つことが出来る。 これ以上は堪らないんだ。 私は死に仕度を続けた。 私は家財を処分することに決めた。 あたりを見回す。テレビ・パソコン・扇風機・冷蔵庫・洗濯機・電子レンジ・コタツ・タンス・布団一式・カーテン。 ふう。これは手間が居る、死に仕度とは引っ越しより難儀な作業のようだ。 大体 見よ この君との思い出の欠片ばかりの品を! みんなみんな私の宝物ではないか! テレビ。 君が大好きだったスタジオジビエアニメ「星の釣り人」 主人公エリオットがヒロインのオリビアに 「君に星をあげよう」という名シーンに 「やすおくん、早織も星が欲しい」 とおねだりされて対処に困った記憶。 私にどうしろと? パソコン。 一緒にレポートや卒業論文を三日三晩死んだ魚の目みたいになって書いた思い出があるが、やはり一番は、 「ね~やすおくん、早織に隠れてえっちなDVD観てるでしょう?」 「観てない、観てないよ」 「やっぱり嘘ついてる、やすおくんが嘘ついてる時は同じ言葉二度繰り返すの、早織知ってるんだから」 女の観察力はすごい。 私は君の嘘に気づけなかった。 扇風機。 夏、彼女が扇風機に向かって密着向して「アー、ワレワレハウチュウジンダ」なんで馬鹿なことやってるのを静かに眺めていた。(我々って俺もかよ) 冷え性でクーラーが苦手な君のために私は暑い思いをしながら君の子供染みた仕草を愛した。 その時に書いた小説が「扇風機の収穫」 洗濯機。 私が普通に洗濯物を洗濯機に入れ、洗って干そうとすると君がそれをとがめた。 「違~うやすおくん、そのまま干したらシワになっちゃうでしょ~、こうしてパンパンって広げてシワにならないようにしてから干すの、わかった?パンパンって」 私は君とパンパンしたくなった。 電子レンジ。 何故か君は電子レンジを使用するのを嫌がった。「あったかくはなるけど温かみが感じられない」って。 妙に哲学的な君が居た。 その何気ない一言がまさか、私と君との未来を予見していたとは。
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