少しの老いと孤独

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彼女の表情は戻らない。布団に横わった君は両足を伸ばしタンスに突っ張るような体勢をとった。 「こんな時はいつもこうやって踏ん張って痛みに耐えるの、早織平気だよ」 青ざめながらも君は私に心配をかけまいと必死に優しい嘘をついた。 「なんていたいけな、おい、頭痛・生理痛にすぐ効くハデス なんて嘘じゃないか! 誇大広告か! ハデスとか冥界の王じゃないか!」 私は市販薬に当たった。 君は苦い顔のまま体を震わせた。 「お願い、今は笑わせないで」 私の一言が彼女を余計に苦しめてしまった。 さっき時報を聞いていたことを話したら彼女は笑い死んでいたかもしれない。 私は君のお腹をさすってあげた。 三時間かそこらの後、彼女はやっと穏やかにすうすうて寝息を立てた。 安堵の時。 私はタンスにお礼を言った。
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