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顔が見れない……
俯いてグッと歯を食いしばっていると、落ちてきた声は予想に反して緊張感のないものだった。
「何やってんの」
「だ、だって、そんなん知られたら、嫌われちゃうと…」
「あのねえ、3年越しの告白して、あんなん見せつけられて、こんだけ気持ちかき乱されて、放っとく程出来てねぇし。そもそもあれ、エレベーターホールでのことだろ?」
「はい。真田さんの香水の匂いを嗅いだだけで……」
「……」
青砥先輩は一瞬で氷付けにされたタオルのように固まると、急に私の頬をつねった。
「痛い痛い」
「なにそれ、それは聞いてない、真田さんはコケそうになってとか言ってたけど」
さ、真田さんーーーー! ま、まさかそんな……嘘を……
「だ……だって、これはただ……真田さ……」
急に不機嫌ダダ漏れの青砥先輩に一歩引こうとするが、背後の木が邪魔で逃げられない。そんな状況を知ってか、木に背中を押し付けられ、腕を下に引っぱられた。勢いで中腰になり、先輩の真面目な顔が間近になる。
次の瞬間、口元のマフラーがずらされて、冷たい! と認識したときには視界は真っ暗。気付けば、口を覆うように温もりが押し付けられていた。
「んんんんーーーー!」
何かを発せようとするが、声にならない。
先輩の胸を押し返そうとするが、微動だにしないし咄嗟のことで上手く呼吸が出来ない。徐々に力も失って、青砥先輩に覆い被さるようにへたり込んだ。
「先輩のバカ! こんな……ところで」
肩で呼吸しながら、ゆっくりと体制を立て直すと、先輩の肩口に額を預けた。
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