8 バックショットに気を付けろ

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 顔が見れない……  俯いてグッと歯を食いしばっていると、落ちてきた声は予想に反して緊張感のないものだった。 「何やってんの」 「だ、だって、そんなん知られたら、嫌われちゃうと…」 「あのねえ、3年越しの告白して、あんなん見せつけられて、こんだけ気持ちかき乱されて、放っとく程出来てねぇし。そもそもあれ、エレベーターホールでのことだろ?」 「はい。真田さんの香水の匂いを嗅いだだけで……」 「……」  青砥先輩は一瞬で氷付けにされたタオルのように固まると、急に私の頬をつねった。 「痛い痛い」 「なにそれ、それは聞いてない、真田さんはコケそうになってとか言ってたけど」  さ、真田さんーーーー! ま、まさかそんな……嘘を…… 「だ……だって、これはただ……真田さ……」    急に不機嫌ダダ漏れの青砥先輩に一歩引こうとするが、背後の木が邪魔で逃げられない。そんな状況を知ってか、木に背中を押し付けられ、腕を下に引っぱられた。勢いで中腰になり、先輩の真面目な顔が間近になる。  次の瞬間、口元のマフラーがずらされて、冷たい! と認識したときには視界は真っ暗。気付けば、口を覆うように温もりが押し付けられていた。 「んんんんーーーー!」  何かを発せようとするが、声にならない。  先輩の胸を押し返そうとするが、微動だにしないし咄嗟のことで上手く呼吸が出来ない。徐々に力も失って、青砥先輩に覆い被さるようにへたり込んだ。 「先輩のバカ! こんな……ところで」  肩で呼吸しながら、ゆっくりと体制を立て直すと、先輩の肩口に額を預けた。
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