掌編小説 狂信の体にしみる悲しみは、波紋となって空へ響くか

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 だが、小鳥は二度と歌わなかった。永遠の眠りについたのである。畜生として死んだ友は、次の世界に生まれ変わる。また畜生に生まれ変われば、共に歌う機会もあるだろう。世の中に絶対はない。絶対の別れではない。私は永遠に生きるのだから、いつかまた会えるかもしれない。それがわかっていても、私はその体を手放せなかった。  死に悲しみ苦を重ねた四十九日。柔らかな羽根はところどころはげ、そこを虫が食っている。無数の米粒が蠢く体は、懐に入れたままだ。酷い臭気に死を思う。死ぬのは恐ろしい。だが死ねなくなった今、生きるのもまた恐ろしい。なんど死に苦しめばいいのか。いつまで生に苦しめばいいのか。もし死んだとしても、輪廻に囚われ生まれ変わるのだろうか。  成仏したい。今すぐにでも、私を束縛する何本もの鎖を断ち切りたい。そのために祈っても現状は変わらない。ただ私にできることは、この鳥のために祈ることだ。私は再会を望んでいた。でも友が望んでいることは、私が常に望むことと相違ない。輪廻からの解放だ。  だから私は祈った。土に埋めて手を合わす。手遅れであろうと構わない。ただ友の幸せを願うばかりである。こうして七日八晩祈った。これ以上祈ってもいいことはない。友が私を憐れんで、また会いに来てはいけない。近くの花に墓守を頼み、私はその場を立ち去った。  鳥たちが空を踊っている。楽しそうな彼らも、いつかは土に還る。これまで友の数も、祈った回数も、もう数えていない。先程のも数えきれない死の群れに呑まれるのだろう。気がつけば涙も枯れた。でも、感情は枯れることなく湧き出てくる。感情に呪われて重くなった足で、今日も前へ進む。そして、ヒトのいなくなった世界を放浪するのである。
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