掌編小説 狂信の体にしみる悲しみは、波紋となって空へ響くか

5/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 すると池の水が輝き出す。葉の上の私が光に消えた。睡蓮の蕾が開いて甘い香りを放った。意識が葉の上の体に戻る。眠りから醒めた私の目の前には、夢の景色が広がっていた。漣に花が揺れる。空を見れば眩しくて目がつぶれそうだ。  それでも、じっと空を眺めていたら、大きな手が伸びてきた。誰の手なのかはわからない。気がつけば握っていた。優しく引っ張り上げられる。体に重さを感じない。私の体は、まるで羽根になったかのように軽く空へ浮かんだ。  遠くなる池は輝き続ける。私の座っていた蓮の葉が、何かに突き上げられ破れて沈む。現れたのは池一杯の、巨大な蓮華の蕾だ。波紋をかたどる光に照らされ開花してゆく。その花弁は金色だった。一枚開くたびに、太陽に似た光が青草を染める。最後の花弁が開くときには、池一帯が金色になった。  しかし限界まで開くと、花は色を失って、黒ずみながら池に沈んだ。まわりの睡蓮の花も枯れていく。そして池は、元の姿を取り戻した。それでも天の輝きは消えない。つながれた手も、離すことが出来ない。  長い苦しみの夢が覚めようとしている。永遠の生に囚われた魂が、解放される気がする。風の流れを身に受ける。天に繋がる手に引かれ、遠い所へ連れていかれるようだ。私は全てを受け入れて、快く瞳を閉じた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!