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「中村くん、アタシ、見る影もないでしょう?影どころか髪もないし」
「そんなことはない、 君は今でも世界一美しいよ。」
「『今でも』ってのがクッソ嘘臭い、生まれた時から世界一美しいと知っていた女に『世界一美しい』と言ったって何にも嬉しくはないのよ。」
「それでも君は美しい、ただ下品な言葉はやめてくれ、君には似合わない」
「はっ!歯の浮くような嘘っぱちね、いいのよもう、アタシ死ぬんだから、気分が良いでしょう?アタシのこんな末路を見て。」
「そんなことはない、気分は悪いが君と話せて嬉しい」
「アタシは悪いわ、気分も!具合も!、アンタを呼んだのも憂さ晴らしがしたかっただけ、べつに寂しくなったわけではないのよ。」
(悲しい嘘だ)
「嘘だ!美しさと傲慢さと我が儘だけで生きてきた君が、男に不自由しなかった君が僕を呼ぶ訳がない!」
遼子との時間はきっと多くは残されてはいない。私は20数年ぶりの思いの丈をすべてぶつけた
「だったらどうだっていうのよ!寂しいわよ!悲しいわよ!アタシこんなになって独りぼっちでずっとこんな辛気くさい部屋の天井見て死ぬのよ!寂しくない筈がない!」
「病院ではお静かに」
看護士の女性が割って入った。
すみません、と私が言いかけた時、
「もう長くないんだから好き放題洗いざらい言わせなさいよクソブス!出てって」
「遼子!失礼だよ、すみません」
看護士はそそくさと出て行った。舌打ちが聴こえた。醜い世界だなここは。
「ところでアンタ何様?呼び捨てとか許可した覚えないんだけど」
「一度でいいから呼んでみたかった」
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