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灰色のむらくもが山の向こうまでおおっている、
今日はすこしだけ温かい朝です。
この、北の大地に住んでいる少女の名前はプラデンティアといいましたが
みんなはしたしみをこめてプリューと呼んでいました。
その日、プリューはベッドから起きてエプロンを身につけると
朝ごはんの支度に使うたきぎを拾いに森へと向かいました。
「おはよう、今日はベルーハ山がきれいに見えるね」
村の真ん中で、井戸水をくんでいるテムルおばさんに会いました。
この国の南にはアルタイという山脈がつらなっていて、
その山を超えたはるか向こうにはプリューたちとは言葉も、文化も、肌の色も
まったくちがう人達が住んでいました。
プリューたちの国は、一年前にその国と戦争をして
負けてしまいました。
もっと南の町や村はのこらず略奪されてしまったのですが、
この村はあんまり寒いので攻めてこれず、あたたかくなって雪がとけるのを待っているのです。
だれも、戦争のことはいいませんでした。
戦争のことを言う人はみんなとうに、他の国に逃げていったのです。
残されたのは、他の国に頼れる人がいない人、
お年寄りやけが人をかかえてうごけない人、
けわしい山々にかこまれた道のりをあるき通せない人たちでした。
その冬は、いちだんと寒い冬でした。
こおりのように冷たい水で洗濯をすると、手にはあかぎれができました。
日々の水仕事に追われてなおる暇もなく、割ったような赤い血のあとはどんどん広がっていきました。
毎日使うたきぎは減っていき、今日は昨日よりもっと森の奥へ入らないと見つからなくなりました。
生活は悪くなっていくばかりでしたが、人々は冬の冷たさを愛しました。
残されたわずかな日々を大切におもい、残されたわずかな人々を深く愛しました。
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