第1章 本屋

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「それ、最後の一冊ですか?」 大人びた綺麗な声は、俺にそう問いかけていた。 あまり、初対面の人と話すのが得意ではないから軽く戸惑いながらそうですと返事をした。 「ここって取り寄せしてもらったらすぐきますか?」 まるで僕が、この店の主人であるかのような質問をしてきた。普通の人は、本屋の発注から到着までの時間なんて、わからないだろう。 ただ、俺にはわかってしまう。通いすぎて、新刊から十数年前の本まで大量に取り寄せをお願いしてきたからだ。 「たぶん、これなら2週間で届きますよ。なんせこんな田舎町ですからね、時間はかかります。」 そう、俺の住むこの街 錦源町は田舎の田舎。 ちょっとショッピングをしようものなら、電車で二時間揺られなければいけない。 「これ、お譲りしますよ。俺、店長に取り寄せしてもらうので。」 我ながら、本に関すると人が良くなるなと実感する。 「えぇ!そんな!私が取り寄せをお願いしますよ!さきにみつけたのはあなたじゃないですか。」 「いいんですよ、今すぐ読みたいわけではないですし。それに店長と仲良いんでもしかしたら、早くに届くかも。」 お譲りしますね、そう言って店長の元に行こうとしたとき 彼女の発言にまた俺は驚いた。 「あの!明後日には読み終わります!ので、あの、えっとこの本を私から借りてもらえませんか?」 一瞬何を言いたいのかわからなかった。こっちが引き下がったんだからもういいだろ。 少しむしゃくしゃしながら返事を考えてると 「いいじゃないか、貸して貰えば。どうせ、おめぇ買ったって読み終えれば、また俺に読めって押し付けるだろ?」 店長だ。 そう、ここの店長は本屋経営のくせに本を読まない。 昔、イタズラで大嫌いな本を燃やして家が半焼したらしい。 元々、本が嫌いで腹いせに燃やしたのだと。 その罰として父親の後を継がされ、かれこれ20年間本屋をしているのだ。
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