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本に囲まれながら、本を嫌うなんてもったいないと思った俺は、読み終えた本をそのまま彼に渡している。
いつか、本が好きになるようにと、読みやすい本を送り続けているのだ。
「店長が本を読まないから送ってんだろ? いいから早く、取り寄せしてくれよ。」
「ダメだ。取り寄せの仕方を忘れちまった。」
たまに、本気とも冗談とも取れる事を言うからタチが悪い。いっそのこと昔のことも忘れて本好きになってくれればいいのだが。
「それに、お前はもう少し人の優しさを受け取るべきだ。そんなんだといつまでたっても、コレができねぇぞ?」
「万年ハゲ野郎に言われたかねぇよ!!」
小指をクネクネさせてからかってくる店長に、オーバーキルを食らわせてから、彼女の方を見る。
「じゃあ、明後日借りていいですか? 」
僕と店長のやり取りを見ていたからなのか、笑いながら目に涙を浮かべてる彼女は
「ふふっ…はい!譲っていただいてありがとうございます!」
そういって、カウンターでお会計をし始めた。
店を後にしようとした時、彼女がまた声をかけてきた。
「あの!!お名前聞いていいですか!? 私、
高原 千夏です!」
「上田 駿です。」
「またね、駿くん!」
そう別れを告げて、彼女は歩いていった。
俺は店を出て左に、彼女…もとい千夏さんは右に帰る。
自転車を漕ぎながら、胸に違和感を覚えた。
ただ本を借りるだけ。
それなのに、千夏さんの顔が忘れられない。
それほどまでに、彼女の涙は綺麗だった。
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