第2章 小説

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なんの造作もなくただ、スマホにスマホをかざすだけ。 それだけで、人の連絡先を自分のものにできるのだ。 ピンクのクマのアイコン。いかにも、女の子らしい画像だ。 俺のLINEにはあいにく友達が少ない。あまり、社交的ではないし、人見知りもする。 放課後、友達とご飯に行くことも、ショッピングをすることも、したいと思わないし誘われても行かない。 「駿くん、友達少ないね。」 「容赦ない一言ですね。少ないですよ。けど、それで困ってないですしさほど問題ないです。」 「ダメだよ。もっと学生を満喫しなきゃ。」 「なんでですか。千夏さんもまだ学生でしょ?おばさんみたいなこと言わないでくださいよ。」 そうバカにするように言った後に、千夏さんの顔が少しだけほんの少しだけ、曇ったあと、 「あたしは、ほら…、小説読むのが趣味だから。学生の趣味に感じないでしょ?高校生なんか若さで満ち溢れてるんだから、駿くんはあたしみたいにならないでほしいの。」 一瞬見えた、悲しそうな顔と元の優しい顔。 そんなに、高校生活を楽しむべきなのかと思いながら、僕にも趣味と言える物が1つあることを思い出した。 「あの、俺、小説をか‥‥」 と言いかけた時、店長が横入りして話しかけてきた。 本当に間が悪いんだこの人は。 「そういやよ、駿。こんなチラシが届いたんだが興味ないか?」 なんですかそれ?とその紙を見る千夏さんと なぜか誇らしげに僕を見る店長と 趣味を話すことを邪魔された僕は 真夏の昼中、一枚のチラシを覗き込んだ。 【○○社主催 夏季小説コンクール】とカラフルな文字で書かれている題名の下を店長が指を指す。 「ほら、ここだ。対象年齢が高校生以下、それに最優秀賞は賞金50万、優秀賞でも10万だ。どうだ、駿。お前小説書いてただろ?」 ばかー!!!なんであんたがそれを暴露するんだ!! 「え、駿くん小説書いてたの?」 驚いた顔をしてそう問いかけてする千夏さんに 「えぇ、まぁ。本当に趣味程度なんですが。」 引かれたか?小説好きの小説家なんて山ほどいるが、凡人のそれはかなり恥ずかしいと自分で思う。 バカの店長のせいで、良からぬ形でバレた僕の趣味はこのコンクールから始まる物語のキーになっていくことを、 ここにいる三人は思いもしなかった。
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