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当時私は入院していた。
子供の頃より国の指定難病を患い、
数年ごとに入退院を繰り返していた。
どれほど悪化しているかの検査がひと通り終わり、手術の順番待ちの私は絶食治療中だった。
入院してから三ヶ月、首からの点滴のみのはずだったが、
その禁を破りかきたま春雨スープを食べていた。
そこへの相席希望。
彼も下の階のカフェからコーヒーを買ってきていた。
「入院、なげぇの?」
「え、どうでしょう。 そろそろ三ヶ月になりますが、長いほうなんでしょうかねぇ」
「そっが。 オレ一昨日から出戻りなんだわ。
検査入院して、退院して、ほんでまた入院してけろって」
「あー、なんか見つかっちゃった感じですか」
「ん。 ガンなんだと」
「あれま」
ガン。
私の頭の中を白い白鳥と黒い白鳥が飛び交った。
「おれ、いづもは船さ乗ってんの。 ガンったってェ保険もねェ、何かもう面倒くさくてよう」
からからと笑うおじさんを私は春雨のスープをずず、と啜りながら観察する。
顔色が悪い。きっとこれは日焼けに更に黄疸だ。
クマも濃い。
貸出の病衣に渓流釣りをする人が身につけるような沢山ポケットのついたベストを着ている。
高そうな、どこかで見たような腕時計
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