おじさんと美女の話。

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を身につけていた。 「ご家族が心配されるでしょうに」 「んーなもンねぇのよ。 この年まで独身の独り身よ。カーチャンもガンだったべし、父ちゃんば流されでしまった」 「それは……」 流された。 数年前の震災の津波に、だ。 「アンダは震災どうだったの」 どうコメントして良いかわからず口ごもっているうちにおじさんは私に話を振った。 「あの時は……ここの病院に紹介されて初めての受診日でしたね。 あ、私出身が青森で……受診が終わって、バイクで帰って、あと数分ズレてたらマンションのエレベーターの中でエラいことになってましたよ」 ぽつりぽつりと思い出しながら「あの日」の事を語った。 「遅い昼メシ代わりにカップラーメン食べて、さぁ夜勤まであと少し昼寝しよう、って布団に入ったんですパンツだけで」 オチがわかったのかおじさんが笑い出した。 「そしたらあの揺れですよ。 マンションの8Fだから揺れる揺れる。 逃げ道確保しようと玄関のドア必死で開けてキープしてたんですけど、 向かいのマンションの上のオブジェみたいなのがバコーンって折れてプラプラし始めて」 手で折れるさまを再現して見せた。 「ああ、このマンションも倒れるかもしれない、どこ
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