おじさんと美女の話。

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した。 可愛らしく子供が好きな保育士さん、それだけで天使のような存在なのに、更にガンの中年をひたむきに愛するとは! 愛の形はさまざまだ、究極のアガペーとエロスがここに! そう感動したのもつかぬま、ハートフル愛情物語はおじさんの次の言葉で見事に崩れた。 「ただ……すんごい方向音痴なのよこの子。 待ち合わせしても「どこ~?分かんないよぉ~って」いっつも会えないんだわ」 「え」 「昨日も仕事休みだってんでお見舞いに来るー、なんつって、迷子になってよォ、電車の時間があるから帰るーって会えなくてなぁ……」 「はぁ」 それって、なにかおかしくないだろうか。 このおじさんは騙されている、そう思った。 けれど幸せそうに語るこのおじさんの幸せを崩すのは気が引けて、私は特に何も指摘せず、 「素敵な彼女さんですね」 と笑顔でコメントするだけにとどめた。 そして、この日からこのおじさんとこの病院の中様々な場所でエンカウントするようになった。 時には外来の会計待ちのソファに座るおじさんを見つけ、 向こうも私を見つけると 「来てくれるつうんで待ってんだけんどよ、また迷子だと」 アイフォンを揺らして笑った。 またある時には売店として
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