ネタばらしは厳禁で

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ネタばらしは厳禁で

 二時間か、と倉石完は思った。  腹ばいになって寝ころんだまま、アラームを止めた目覚まし時計を眺める。針は午前十一時半を指している。長い溜息をついて万年床から起き上がった。  二時間でも深い睡眠だった。悪くない。  身支度をすませてクローゼットを開ける。十五年前に買ったイギリス製の茶色いスーツを選んだ。型は古いが生地は上等だ。スタンドミラーでチェックし、最後にヘルメットを点検した。スイッチを入れると、上部のランプが回転する。内側のスイッチを切り、念のため、予備の電池も布のかばんに入れて部屋を出た。  のっぺりした雲が空を隙間なく覆い、昼間だと思えないほど暗かった。吐く息が白い。すぐにマフラーをしなかったことを悔やんだ。震えながら新幹線の高架下をくぐり、製麺所と町工場の前を過ぎた。頭の中にある長いチェックリストを点検しながら駅まで歩く。  ホームへ向かいながら劇団の携帯電話をチェックする。ディスプレイを見てぎょっとした。着信が十二件残っている。すべて諒次からだ。電話するとすぐに繋がった。 「完さん」  諒次が低く言った。 「あれが見当たらないんだ」 「あれ、というと」 「あれだよ、あれ」  苛立ちを含んだ声がふっつりと途切れ、沈黙が続く。 「何か準備できてなかったなら、すぐに揃えるよ。それで、諒次さん、何がないんですか」 「あれだよ、あの」  舌打ちした。 「わかるだろう、いつも使ってる、アンケートの」  アンケート用紙は用意している。それに、それならすぐにパソコンでプリントアウトできる。用紙ではないとすると、筆記用具か。 「もしかして、あれって、ペグシルのことですか?」 「ペグシルって」 「アンケート用のボールペンですよ。緑色の細い、ほら、場外馬券売り場に置いてある」  アンケートペンの商品名がペグシルなのだと説明し、今日持って行くために買ってあると伝える。電話の向こうで諒次が安堵の吐息をついた。 「悪い」  おそらく壁にかかっているボードを見たのだろう、諒次が言った。
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