Spoliatio(略奪)

1/8
57人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ

Spoliatio(略奪)

 劉 憲生は北京鍋をコンロの上で振っていた。いつもなら粥にザーサイで済ますのだがシスター美那に頼まれたため注文に対応できるように火入れをしていたのだ。蒸籠(せいろ)の準備も万端。 「何でもきやがれ」 「じっちゃん、この子にも朝御飯ちょうだい。迷子になってお腹空いてるんだって……」  劉はカウンターから身を乗り出して誠に声をかける。 「誠、どこの子だぁ?」 「わかんない、お腹空いてるんだって……何食べたい?」 「……青椒肉絲(チンジャオロース)……」  劉はさらに身を乗り出してカウンターの下を覗いた。青白い雨合羽のような外套を被った小さな子供がいた。 「ボクか嬢ちゃんかわからんが名前は?」 「……ウムル……」 「よしよし、いますぐ作るからな。誠も同じでいいか?」 「うん」  劉は厨房に戻り冷蔵庫から食材を取り出すと鉈のような中華包丁で手際よくザクザクと刻みはじめた。ピーマン·筍·牛肉の順番ですべて同じサイズに揃えていく。肉に下味をつけると炒める。仕上げると大人一人分を二つに分け子供二人分にし、ライスと中華スープをつけてカウンターに並べて出した。  カウンターに座った子供たちの食いっぷりに劉はニンマリと微笑みを浮かべた。 「……しかし肉がなくなったなぁ、まずったわ……」         
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!