Adventus(降臨)

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Adventus(降臨)

 神父の顔が姿が変貌していく。他の女たちとは様子が違う。額の皮を突き破り角が、四つの複眼が現れる。口が大きく裂け黒みがかった紫色の牙が剥き出しになる。身体が急激に膨張し、神父の僧衣が破け裂けていく。下半身は人の形状を捨て巨大な蜘蛛そのものに変化していた。白人特有の白き肌は赤紫色になり、その姿は神話にでてくるアラクネに近い。 「イァ! イスァヤニィ!ナクア! イァ!」  神父……いや、サイモン=バークレイが吼える。不気味に変形した腕をシスター美那の胸元に伸ばし僧衣に爪をかけるや下に向けてゆっくりと引き裂き破る。美那の僧衣が破かれその裸身が人目に晒された。 「……お姉ちゃん」  サイモンは爪先で美那の胸を撫で柔らかい二つの膨らみを(もてあそ)ぶと喉から下腹へと爪を下ろしていく。そして(へそ)のすぐ下で動きを止めた。欲望と愉悦に歪んでいた顔が驚きに変わった。 「そんなところにありましたか、ナコティカの欠片よ。フフッ、自重などせず早く貴女を私のモノにすればもっと早々と目的を達成できたのですかな?」  サイモンが見つめる先、美那の下腹部には文字と図形が痣の如く浮かび上がっていた。紋様の一つが淡く蒼く輝いている。 「この土壇場ですべて揃った。儀式をはじめよう」  いつの間にか女たちはすべて蜘蛛へと変化していた。アトラク=ナクアを呼ぶ異形の者共の詠唱がはじまる。 「イァ!イァ!ナクア!アトラク=ナクア!イスァヤニィムナール·ウガナグル·トォヌァルル·ルラナラーク!イァ!イァ!イスァヤニィフグヤムナルン!アトラク=ナクア」  教会の十字架の背後の壁が、建物の有り様がそこに在ってそこに無い、認識はできるのに実在を感じられない異様な状態が拡がりつつあった。  教会の裏手は崖でその先は海のはずだが遥か遠くからナニかが白い橋をかけてこちら側に来ようと近づいてきていた。
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