月は誰でも照らしてくれる

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月は誰でも照らしてくれる

ただいまおかえりなさいがない家だよと言うと、行ってきます行ってらっしゃいがない家よと返してきた。僕たちを少し欠けた月が照らしてくれている。トン子はこの場所の先輩だ。塾の帰りに綺麗な月に気がついて、なるべく近くから見たいと思って高い所を探していたら、このビルの屋上にたどり着いた。この日のエレベーターは修理中だったので7階まで階段を使い、ハアハア言いながらドアを開けた。左には鉄のはしごがあって、その上にある給水タンクに彼女はもたれ掛かって上を見ていた。まるでそれが当たり前かのように、僕は彼女に何を問い掛ける訳でもなく地面に数学の問題用紙を敷いて膝を抱えて月を見上げた。月なんてきっと今まで何回だって見てきたんだろうけど、もちろんこんな方法は初めてだった。ぐぐっと近い大きな黄色い光。周囲の音が止まったのか、それとも周囲の音から遮断される何かに僕が包まれたのか、とても静かだ‥‥きれいだ。 何分経ったのだろうか、上を見ると給水タンクから彼女の姿が消えていた。それから二日間雨が続き、三日目の夜に月が出た。 「反省してんの?」 「えっ、なんで?」 「だって正座してるから」     
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