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わしがトラに出会ったのは、まだ小学生五、六年のことだった。
朝みんなが登校したあと、ゆっくりやって来るようなわしに擦り寄ってきたのがその猫だ。
授業を受けずにフラついていたわしに懐いてきた動物。物語で言うところの救世主だ。更生の兆し。
と言っても、隣にはサボり仲間が一人いたから、別にその猫が現れようが現れなかろうが、『胸に秘められた寂寥感』なるものもなかったし、結局わしはそれから間もなく不登校生にステージアップするのだが。
とにかくトラは毎日のように学校の運動場内へやって来て、しばらくジッとしていた。
「こいつ、すぐそこの家に飼われてるんやぞ」
先程のサボり仲間がわしに言った。
「へぇ、飼い猫だったんか。道理で人慣れしてるわけだ」
「でもな、いっつも脱走するらしい」
「虐待されとんちゃうんか」
「知らね」
会話しながら撫でていると、校舎から副教員が出てきて、その猫を持ち上げて連れ出すのがいつもの流れだった。飼い主の元へ届けているんだ、とわしの隣で解説がつく。
そういうことを何度も繰り返しているうち、いつしかわしは、トラが自分の家の近くにも出没していることに気がついた。
テリトリーが広いのだ。学校から歩いて3分くらいのわしの家も、自由に闊歩できたのだから、今思えば喧嘩の腕前は相当なものだったのかもしれない。
「ほら、おい、餌やろうか。こっちに来いよ」
試しにキャッツフードを持ってくると、カツカツと食べた。
わしの家には既に猫がいたから、食べ物の調達は簡単だった。
「おーい、トラ。餌やるぞ」
トラ柄の猫だから、トラ。この頃、わしが勝手にそう名付けた。元の家の人間が何と呼んでいたかは興味なかったし、まずその住民と話したこともない。もしかしたら全部サボり仲間のでっち上げた話だったという線すらある。あいつは嘘つきの名人だからな。(わしが引っ掛かりやすいだけかもしれない)
かくして、とうとうトラはわしが餌やりまでするようになった。奴も馬鹿ではないから、すぐにわしの家を覚えてしまって、腹が空けばすぐに庭へやって来て、縁側へひょいと飛び乗るようになったのだ。
「野生の動物への餌付けはいけません。そうしていればもっとたくさんの子供を産んで、不幸な子が増えてしまうばかりなのです」
…それがどうした。構うものか。後のことなんか、こっちは知らない。
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