スプートニクは二度笑う

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スプートニクは二度笑う

 彼女はスプートニクと呼ばれていた。その不動の沈黙と佇まいはいつでも宇宙を漂っている衛星のようだった。ロシア生まれでも、天文学者でもない彼女は、小説家を目指していた。少なくとも僕の夢の中まで彼女が出て着ているということは、彼女として僕の頭が認識しただけだ。  しかし、この宇宙空間だと、彼女の顔は手元にある端末と頭の中にしかない。されど僕は彼女がどうしようもなく好きで、端末で飴細工のように微笑みかけている彼女が今どんな顔をしているか。ただそれだけを今思う。  朝が来た。  その証拠に体中に電流が走り、全身が鳴動する。最初に目を開けると、暗く室内を支配している闇の中に朝日を見つけた。いや一方の人にとっては朝日で、どこかの誰かにとっては夕陽だ。僕はその陽を全身に浴びた後に体を落ち着かせる。深呼吸、手を動かし、足を動かす。  これが宇宙空間で生きている30歳男の、1日の習慣だとしたら悪くないだろう。  僕は体を固定しているベルトを腕、腰と外し、無重力空間へ身を乗り出す。まるで綿あめでも両脇に抱えているような無重力も、今や日常に過ぎない。  僕はあくびをした。     
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