第2章

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「あの…ぼくのせいで誰かがクビになるなんて、ぼくが辛くなるのでやめて欲しいで…やめて?」 「スイのせいではないよ。ここは使用人もかなり自由にさせてるけど、王都の使用人なんて主人の前で自分の意見なんて言わないよ?用件の取り次ぎと質問に答えるのと、命令への返事しか口を開かないんだ。」 「そうなの…?」 「主人が家の不利益になる事や失敗をしそうな時はその限りではないけど、結果が良くなければ減棒も、場合に寄っては解雇もあり得る。」 「…厳しい仕事なんだね。」 「そうだ。だがスイが気に病んでしまうだろうから処分はロルカンに任せる。…新人に危険な役回りを押し付けた者もまとめてな。」 「押し付けられたの?」 「…いいえ。」 「とにかく、私の隣にいるべきはスイだ。それだけは譲れない。リシアンサスよりもペラカーパの方が愛しいんだ。」 リシアンサスは愛の告白でも使われる華やかな花。ペラカーパは山間の少し湿った谷でひっそりと咲く小指の爪の半分にも満たない花で、これといった薬効も無く、あえて探そうとする人はかなりの物好きだ。いや、可愛いんだけどね? 地味な容姿の代名詞だ。 でもそれが好きなんだって。 僕は間違いなく地味だからペラカーパに例えるのはぴったりだし、それを愛しいって… 「っ!! 今そんな顔されても応える訳にはいきません。もう少し我慢して下さいね?」 おでこにちゅっとキスされたけど、ぼくどんな顔してるの? 分からない…分からないまま執務室と言うブリアンのお仕事部屋に連れて行ってもらった。 ************* 一足先にこの部屋に来ていたコナンさんがすでに何かの紙の束を分類していた。 「まずこちらを。緊急事態です。」 「どれ?」 手渡された紙に目を通すブリアンの顔色が悪い。 何があったんだろう? 「さっそくスイの力が必要になりました。手を貸してもらえますか?」 「良いよ!でも何があったの?」 聞けば山間部で地震が起きて道が塞がり、唯一の小さな川が枯れたらしい。その辺りでは貴重なイェシル絹糸が取れるため、120人程が暮らしていると言う。 それなら大ちゃんにお願いすればなんとかしてくれるだろう。 他の仕事はそこまでの緊急性が無かったので、保留にして現場へ急いだ。
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