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軽くなった籠を背負って伯母の薬屋を出ると、ジオは市場に足を向けた。
太陽が昇り、少しずつ活気の出てきた市場に入る前に、フードを目深に被る。
そのまま下を向いて歩けば、前髪とフードに隠れて外から瞳が見えることは殆ど無い。
相変わらずジオの瞳は町では蔑まれる対象だったが、幼い頃から何度も通った市場では、ジオのことは誰もが知っていて、今ではジオ一人でも普通に買い物をするには困らなかった。それでも、なるべく瞳は隠して、手早く買い物をするのがジオの癖になっている。昔から変わらない習慣だった。
ジオがこの市場で一人で買い物ができるようになるまで、三年ほどの時間が掛かった。
母がいた時は断られなかった買い物も、ジオ一人では売ってもらえないどころか、相手にされないことが殆どだった。時々は罵声を浴びせられ、追い返されることすらあった。
伯母はジオが一人でも買い物ができるようになるまで、根気よくお使いを任せた。
ジオ一人では買い物ができないことが分かると、伯母は市場までジオと一緒に出掛けた。買い物自体はジオに任せて、伯母は見ているだけだったが、伯母が一緒だとジオに物を売らない店は無かった。薬の配達にもジオを連れて行き、町の人たちにジオが薬屋の人間だということを覚えてもらった。
薬屋は町に一軒しかなく、伯母は近隣の町から訪ねてくる人がいるほど腕の良い薬師だったから、薬屋のお使いだとわかると、町の人々は渋々ながら、ジオが一人でも物を売るようになった。
今では、冷たい視線は感じるものの、ジオに暴言を吐くような人はこの町には居ない。
ジオもなるべく町の人に不快な思いをさせないよう、顔を伏せて素早く用事を済ませるようにしている。
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