ジオの日常

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  ジオは時々、無性に泣きたくなることがある。  あの夜を夢に見た日、歩いていて隣に母が居ないと、ふと気付くとき、そして、夜の始まりを眺めているとき。  それまでは何でもなかったのに、唐突に涙が零れて気付くこともある。  その姿を、ジオは伯母には見つからないようにしていた。自分は強くあらねばならない、泣いている時間などない、と自分に言い聞かせた。  ジオがこの国で暮らしていくためには、瞳の色の差別は逃げられない問題だった。  母はジオから差別を遠ざけようとしていたが、伯母はジオが直面していく問題として、よく差別についてジオに話して聞かせた。  昔から続いている差別だったが、それでも、昔よりは良くなったのだそうだ。外国との貿易を始めた頃から、もともと目の色の濃い人種がいるとわかって、国の発展のためにそれを受け入れ始めたのだという。  とはいえ、根強く残った差別は水面下でしっかりと残っていて、今でも瞳の色の淡く美しい人は優遇され、瞳の色が濃い人は蔑まれている。  ジオの家が焼かれたのは、そうした差別の火が飛んできたからだ。運悪くあの日、標的となるはずだったジオは家に居なかった。家に居たのは、町で一番美しい瞳を持つとされていた母だけだった。  冬の寒い日、薄く透明でどこまでも高い真昼の空の色。  一見、冷たくも見えるその瞳は、けれども優しさに満ち溢れていた。  自分の瞳のせいで、母は死んでしまった。  ジオはあの夜以来、まっすぐに自分の瞳を見ることができなかった。見ればたちまち憎い思いが沸き上がって、どうしようもなかったからだ。
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