怪我人

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怪我人

 調剤をするときは、邪魔な前髪ごと布で覆って、頭の後ろでまとめてしまう。家の中でしかできないことだ。  外に出かけるときには前髪はまっすぐに下ろし、さらに人通りが多いところに入るときにはフードを目深に被る。  今思えば、母がジオと同じよう前髪を伸ばしていたのは、ジオが伸ばしている前髪が少しでも目立たないようにという配慮だったのだろう。  ふと顔を上げて鏡を見ると、そこに移るのは陰って黒にも見える両の瞳だ。  ジオはしばらくぼんやりとそれを眺めて、それから次にしようと思っていたことを思い出して立ち上がった。  煮沸消毒して乾燥させた小瓶を小さなトレイに載せて机に戻り、出来上がった軟膏を詰めていく。  詰め終えた瓶に蓋をしていき、最後の一つを手に持った時、ドンドン、と戸が叩かれる音がした。  「すみません、助けてください!」  荒く叩かれた扉と慌てた声に、ジオは一度瓶を置く。  髪をまとめていた紐を解いて、前髪を下ろしながら扉に向かった。  「どうかしましたか?」 「突然ごめんなさい、助けてください! 怪我をした者がいるんです!」  日に当たって輝く金髪と、短く切り揃えられた前髪の下に緑の煌めき。     
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