幸せが崩れた日

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 少年と母は、前髪を長く伸ばして、町に出るときにはさらにフードを被り、なるべく瞳が見えないようにしていた。  それが自分の瞳の色に関係があることだと、幼い少年はなんとなく、気が付いていた。  少年の瞳は光に透かすと青が見えるが、陰って見えるときには黒に近い色をしていた。けれども、町を歩く人たちの瞳はどれも色素が薄く、どれも透き通るような色をしていた。  少年の暮らす国は、瞳の色で人を差別していた。  瞳の色が薄いほど美しく、濃いほど醜い。少年の黒に近い瞳は、この国では最も醜いとされている色だった。  それを知っていて、それでも母は少年を時々、町に連れ出した。  母は、近隣の村を含めても、この辺りでは一番に美しい、と評判の瞳の持ち主だった。  母の瞳は、冬の寒い日、薄く透明でどこまでも高い真昼の空の色。  そんな美しい瞳を持ちながら、町を離れて醜い子供を一人で育てている変わり者、というのが、母につけられたレッテルだった。     
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