幸せが崩れた日

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 その日、少年の母は体調が悪く、朝から動けずにいた。母は弱々しく笑って、寝ていれば治るよ、と少年に言い聞かせていたけれど、昼過ぎにとうとう不安が弾けて、少年は僅かな金を手に町に薬を買いに行く、と家を出た。  母は少年にメモを持たせて、気を付けてね、と申し訳なさそうに少年の頬を撫でた。  まだ小さかった少年が町にたどり着くには、何度も走って休んでを繰り返さなければいけなかった。  それでも気の急く少年は、ギリギリまで走っては短い休憩を繰り返して森を抜け、町に辿り着き、薬屋の伯母にメモを渡して薬を手に入れた。  伯母はお金を取らず、気を付けて、早く帰りなさいと少年に言った。  そうして少年は元来た道を走って戻った。その間に太陽は沈んでしまって、夜になった。その日は月のない夜だった。  けれども、少年にとって、星明りがあれば十分に道は明るかった。  森に辿り着いた時には辺りはすっかり夜闇に沈んで、星明りの届かない森の中はさらに暗くなっていたが、少年の目には昼間と同じように、慣れ親しんだ森の様子がよく分かった。  ところが、その日森の中に、大きな明かりが点っていた。  この時間に外にいたことがなかった少年は、母が自分のために大きな明かりを点してくれたのだろうと思って、それを目指してまた駆けた。  何かがおかしい、と思い始めたのは、その明かりがどんどん大きくなっているような気がしたからだ。  不安に押しつぶされそうになりながら、少年は走った。  そして辿り着いた先で少年が見たのは、灯の点る温かい我が家ではなく、パチパチと音を立てて燃えている火柱だった。  少年は呆然と立ち尽くすしかなかった。  既に家に入ることはおろか、近付くことさえできない状態だった。
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