ジオの日常

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 昔は走っても走っても辿り着かなかった町にも、今では三十分も走れば辿り着く。  町の中央通りの角にある伯母の店の戸を二回叩くと、開いていると中から声が返ってきた。  「おはようございます、師匠」 「おはよう、ジオ。早く上がりな。約束の薬は出来ているかい?」  ジオ、というのが彼の名前だった。まともに名前を呼んでくれるのは今では伯母くらいのもので、いつもここに来ると、ジオは自分の名前を思い出すような気分になる。  逆に、伯母と呼ばれるのを嫌った彼女のことは、あの夜からずっと師匠と呼んでいる。  伯母はすでに朝食を終えたようで、テーブルの上にはお茶の入ったカップしかない。二つあるうち、その片方はジオのものだ。  ジオは籠を下ろして椅子に座った。そして、出来上がった薬と薬草を籠から出して並べて見せる。  「咳止めと鎮痛剤。それから、睡眠薬と吐き気止めの材料です」  それらを一つ一つ確認して、伯母は全てを綺麗に棚に収めた。  「助かるよ。お前が作る薬は効きが良いからね。薬草も一級品だ」 「ありがとうございます。森にある薬草も多いですから……。次は何が要りますか?」     
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