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噂では、カニスは女遊びがひどいと聞いていたけれど、オース家はとうとう腹に据えかねて、わたしとの結婚を進める気になったのだろうか。いやそれなら、父から連絡があるだろうし、そうなれば、オース家の家長からの手紙になるはずだ。となると、この手紙は一体、どういったものなのだろうか。
今までまったく連絡をしてこなかった人物からの手紙に、わたしは戸惑った。
まあ、連絡をしなかったのは、わたしもだから、お互い様と言えばお互い様ではあるけれど、それでも、これは親好を深めるための手紙なのか、はたまた他の理由なのか。
とはいえ、嫌な予感に捕らわれつつ、わたしは早歩きで自室へ入った。
飾り気のない寝台と机、椅子のみのシンプルなわたしの部屋。しっかりと鍵を掛けて、上着も脱がずに椅子に座る。
改めて封筒を見ると、封緘にはオース家の家紋がワックスで留めてあるところを見ると、本物のようだ。封筒に使われている紙も上質だし、それなりに正式な文書である、というのはよく分かった。
引き出しからペーパーナイフを取りだして、意を決して一気に開けた。
切り口からのぞくのは、舞踏会などの招待状と同じ硬めの紙。
これだけ見れば、悪い知らせであることがよーっく分かった。
どきどきと心臓が逸るけれど、深呼吸をして、封筒の中から紙を引っ張り出した。
真っ白な、紙。
それだけでオース家がそれなりの家であるということが分かる。
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