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殿下はこの時間になると、ようやく書類仕事に取りかかる。もっと早い時間にしてくれればいいのにと思うけれど、そこはしてくれないよりマシだから、うるさく言うのは止めた。
「ルベル?」
「ラーウス殿下、少しお時間、いただいてよろしいでしょうか」
この部屋にくる道すがら、わたしは作戦を一つ立てた。たぶんこの作戦は失敗するだろう。それでも挑むのは、待っていられない、その一言だ。失敗したら、そのときはそのときだ。
「ルベルのためならいくらでも」
ラーウス殿下はそう甘い言葉を囁くと、羽根ペンを瓶に差し、聞く体勢を取ってくれた。
わたしは深呼吸をして、頭を下げた。
たぶん、殿下はすごく驚いた表情をしているだろう。わたしは頭を下げたまま、口を開いた。
「殿下、明日から数日、休暇をいただきたいのですが」
「駄目だ」
「…………」
うん、分かっていた。
分かっていたのよ、この仕事馬鹿が休みをくれないってのは。
とはいえ、週に二日は普通に休みがもらえているから、まったくの無休ってわけではないのは一言断っておく。
だけど、まとまった休みを欲しいと言っても、殿下はいつも首を振る。そのせいで、殿下付きとなってからこちら、故郷には帰れていない。
「殿下、わたしの休暇、たまっていたと思うのですが」
「たまっているね」
「そのお休みを、三日ほど使いたいのですが」
「三日!」
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