プロローグ

2/2
69人が本棚に入れています
本棚に追加
/199ページ
何も変わらない世界。 街並みも、人並みも、近くの人工物も、遠くの景色も、喧騒も、空気の匂いも……どれもこれも俺の知る現実世界と同じに見える。 だが、ここは普段俺の住んでいる場所ではないらしい。 よく見れば、同じ様でも同じではないと分る。 例えば、路肩に止まっているこのクルマ、街で見かけやすい車種だが、外観が本来の形とは若干違っている。 「それは作家さんの画力の影響ですね。参考資料を見ながら描いているのでしょうけど、この方はメカを描くのが得意ではないみたいです」 俺の頭上から、女の……髪乃塚猪子(かみのつかいのこ)の声が聞こえた。 声のした方を見上げると、猪子は空中に俯せの姿勢で浮かんでいた。 彼女の着衣は、首からかけた薄桃色の羽衣のみである。 両乳首の先端と女性器を隠す様に纏われているが、それは透過性が高い素材で出来ていて、下から見上げた俺からはほぼ全裸にしか見えなかった。 「なんでその格好なんだ! それに浮かんでるとは何事だ!」 大きい声を出した俺を、この世界の通行人達が遠巻きに避けて行く。 あ、明らかにヤバイ奴認定されたわコレ。 「大丈夫です。私の姿は貴方以外には見えませんから。それに私はエロマンガの神の使いなのですよ。この世界で空中浮遊など造作もないです」 そう、コイツはこの世界……エロマンガの世界に、俺と飛び込む前にもこんな事を言っていた。 曰く、自分はエロマンガの神に使わされた者、エロマンガの中で苦しむ変態達(キャラクター)を救済する為の勇者を探していたのだと。 そして、その勇者こそ俺なんだと。 ………………。 …………。 ……。 よし! 俺にも分ってきたぞ! 取り敢えず、死んでみるか!!
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!