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何も変わらない世界。
街並みも、人並みも、近くの人工物も、遠くの景色も、喧騒も、空気の匂いも……どれもこれも俺の知る現実世界と同じに見える。
だが、ここは普段俺の住んでいる場所ではないらしい。
よく見れば、同じ様でも同じではないと分る。
例えば、路肩に止まっているこのクルマ、街で見かけやすい車種だが、外観が本来の形とは若干違っている。
「それは作家さんの画力の影響ですね。参考資料を見ながら描いているのでしょうけど、この方はメカを描くのが得意ではないみたいです」
俺の頭上から、女の……髪乃塚猪子の声が聞こえた。
声のした方を見上げると、猪子は空中に俯せの姿勢で浮かんでいた。
彼女の着衣は、首からかけた薄桃色の羽衣のみである。
両乳首の先端と女性器を隠す様に纏われているが、それは透過性が高い素材で出来ていて、下から見上げた俺からはほぼ全裸にしか見えなかった。
「なんでその格好なんだ! それに浮かんでるとは何事だ!」
大きい声を出した俺を、この世界の通行人達が遠巻きに避けて行く。
あ、明らかにヤバイ奴認定されたわコレ。
「大丈夫です。私の姿は貴方以外には見えませんから。それに私はエロマンガの神の使いなのですよ。この世界で空中浮遊など造作もないです」
そう、コイツはこの世界……エロマンガの世界に、俺と飛び込む前にもこんな事を言っていた。
曰く、自分はエロマンガの神に使わされた者、エロマンガの中で苦しむ変態達を救済する為の勇者を探していたのだと。
そして、その勇者こそ俺なんだと。
………………。
…………。
……。
よし!
俺にも分ってきたぞ!
取り敢えず、死んでみるか!!
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