110人が本棚に入れています
本棚に追加
/748ページ
「今の俺は……」
目を覚まし、意識が鮮明になった瞬間、瀧島一貴は自分が変化している事に気付いた。
あくまで心境だが、自信に満ち溢れた気持ちになっている。
(なんだ? このスッキリ晴れ晴れとした感じ)
就寝前の出来事を思い返す。なにか良い気分になる事があっただろうか?
現状のもどかしさに、憂鬱な気分でベッドに入ったはずだが、目が覚めると180度違う感覚になっていた。
(いい夢でも見たかな?)
喉の渇きを覚え、一貴は自室から、同じ階にあるリビング・ダイニングへ向かった。サーバーから水を注ぎ、コップ半分ほど飲んで一息ついた。
中庭に面したリビング・ダイニング、その窓際に立ち、雲一つない夜空を見上げる。
そこに浮かぶ真っ白で、欠けるところのない月を眺めながら一貴は思いを巡らせた。
「あっ……」
一貴は軽く戦慄した。彼の中で一つの結論が導かれていた。
月明りの差すリビングで、壁掛けの多機能時計に表示された月の満ち欠け予測を確認する。
(やっぱり。 今日は満月だ)
一貴はひと月程前の事を思い出していた。
夜中に目が覚め、何となくいい気分になって、同じようにここで空を眺めた日があった。
その日も月が丸く輝いていたはずだ 。
(わかった。気分が良いのは、いつも俺の中にある不安がないからだ。あの夜も同じだった)
再び窓際で、月を仰ぐ。
(この月と同じように今の俺にも欠けた所はない。俺は失われたものを取り戻している)
一貴は確信した。
(今の俺は……)
その時、ドアの取っ手がカチャリと音を立てた。
最初のコメントを投稿しよう!