「今の俺は……」

1/12
110人が本棚に入れています
本棚に追加
/748ページ

「今の俺は……」

目を覚まし、意識が鮮明になった瞬間、瀧島一貴(たきしまかずき)は自分が変化している事に気付いた。 あくまで心境だが、自信に満ち溢れた気持ちになっている。 (なんだ? このスッキリ晴れ晴れとした感じ) 就寝前の出来事を思い返す。なにか良い気分になる事があっただろうか? 現状のもどかしさに、憂鬱な気分でベッドに入ったはずだが、目が覚めると180度違う感覚になっていた。 (いい夢でも見たかな?) 喉の渇きを覚え、一貴は自室から、同じ階にあるリビング・ダイニングへ向かった。サーバーから水を注ぎ、コップ半分ほど飲んで一息ついた。 中庭に面したリビング・ダイニング、その窓際に立ち、雲一つない夜空を見上げる。 そこに浮かぶ真っ白で、欠けるところのない月を眺めながら一貴は思いを巡らせた。 「あっ……」 一貴は軽く戦慄した。彼の中で一つの結論が導かれていた。 月明りの差すリビングで、壁掛けの多機能時計に表示された月の満ち欠け予測を確認する。 (やっぱり。 今日は満月だ) 一貴はひと月程前の事を思い出していた。 夜中に目が覚め、何となくいい気分になって、同じようにここで空を眺めた日があった。 その日も月が丸く輝いていたはずだ 。 (わかった。気分が良いのは、いつも俺の中にある不安がないからだ。あの夜も同じだった) 再び窓際で、月を仰ぐ。 (この月と同じように今の俺にも欠けた所はない。俺は失われたものを取り戻している) 一貴は確信した。 (今の俺は……) その時、ドアの取っ手がカチャリと音を立てた。
/748ページ

最初のコメントを投稿しよう!