「約束があるんだよね。二人の」

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予定時間を若干超過して、准教授が講義の終わりを告げた。 終了を待ちわびた学生たちが一斉に席を立つ中、転げ落ちたボールペンを拾う為、移動のピークが過ぎるのを待っていた一貴のもとに女子学生がツカツカと歩み寄ってきた。 「これ、あなたのでしょ、瀧島くん」 彼女が差し出したボールペンは確かに先程落としたものだ。 「どうも」 受け取った一貴は、自分を苗字で呼んだその女性を凝視した。 自分より二回り程小さい体格に、明るい栗色にカラーリングしたスイングショートの髪、小さい顔の中でひと際大きく見える二重瞼の瞳、体の大きさの割に豊かな胸の膨らみ――。 記憶を失って以降、一貴は自分に声をかけてくる人をしっかり観察するようにしていた。 毎回何か思い出せるかもと期待してみるが、残念ながら結果が出たことはない。今回もそのようだ。 諦めて「すいません、どなたですか?」と一貴が言い終わるより早く、 「本当に記憶喪失なんだ!」 そう言って、今度は彼女が一貴の顔を覗き込んだ。 「同好会で会って以来だから、2ヶ月半ぶり?」 スキーバスの事故に遭って、それだけの時間が過ぎていた。 「ずっと声を掛けようって思ってたんだけど、何だか気遅れしちゃってさ」     
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