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午前中の講義が終わった校内広場、人混みを縫うように、翔子と一貴が歩いていく。
「さっきのは仙台伸二、ウチのドラム担当。ベースのヨータローはもう知ってるわよね?」
「いいのか? ドラムの彼を放っておいて」
「伸二は空気読めなくてさ。身をもって分からせないとダメなのよ」
なにやら厳しい人間関係のあるバンドのようだ。やはり、顔を出すのは、もっと落ち着いてからがいいかもしれない。
陽太郎にも詳しく聞いておこう、一貴は考えを巡らせた。
人混みを抜け出したところで翔子が足を止めた。
「ところでさ、私と、瀧島くんの事なんだけど……」
含みを持たせた言い方をする翔子に、一貴は視線を向けた。
「これも覚えていないんだろうけど・・・・・・約束があるんだよね。二人の」
「約束?」
「うん。二人だけの約束事」
と、一貴の背後に目をやった翔子は、学生達の中にある人物を認めた。
「おっと、今度話そう。サークルに来た時にね」
「それって、いつになるか……」
「待ってるからさ」
翔子は去り際、
「後ろに美人の彼女さん」
一貴に囁くと、小走りに離れていった。
振り返った一貴の視界に、笑顔で近づいてくる道上里緒の姿が映った。
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