第一話「ハヤシライスは恋の味」

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 そう言って一砥がニッコリ笑うと、二代目社長は陶然となり、「存じております。彼女はあの高蝶家の令嬢なんですよね。だがただ食事をご一緒出来るだけでも、非常に光栄な話ですよ」と言った。 「ならばもう下賤な女など放っておいて、次回の食事会についてのお話でも、場所を変えてしませんか。ああ、そうだ。バーテンダーに使うはずだった金で、ARisAにバラの花束でも贈ってやって下さい。あの子はピンクのバラが好きなんです」 「そ、そうですね。そうしましょう、そうしましょう。全く私としたことが、すぐ近くに本物のダイヤモンドがあると言うのに、模造品なんかに大金を叩くところだった」  そこで一砥は立ち上がり、呆然としている他のゲストに向かって、「それでは私達は場所を変えて飲み直しますので、これで失礼します」と言った。  二人が席を立つと、一砥にだけ見えるように、タナカスズキ社長が拝むポーズをして感謝の意を示した。
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