第一話「ハヤシライスは恋の味」

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第一話「ハヤシライスは恋の味」

    1 「なあ一砥。ハヤシライスが食べたくないか?」 「……は?」  雨宮一砥(あまみやかずと・30歳・独身)は、幼稚園からの腐れ縁、しかし彼にとっては唯一友人と呼べる相手、一色奏助(いっしきそうすけ・30歳・独身)の唐突すぎる発言に、思いきり眉をひそめた。  国内外のセレブご用達ブランド【O‐C】(オーク)の、設立者でありディレクターでありデザイナーでありプロデューサーでもある一色美里(いっしきみさと)は、奏助の父の姉である。  その伯母の影響でファッションカメラマンの仕事をしている奏助は、今日いきなり「美里さんの使いで来た」と言って、一砥のオフィスに現れた。  彼の訪問はいつも突然だ。  そして社長室で目的のお使いを果たした直後に、また突然の「ハヤシライス……」という台詞なのだった。 「いきなり何を言い出すんだ、お前は」  日々職務に忙殺されている一砥は呑気な友人の顔をジロリとねめつけ、今渡されたばかりの封書を開いた。 「ふーん、O‐Cの今回のテーマは鳥か。また“どこで着るんだこんな服”のオンパレードになるんだろうな」     
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