第一話「ハヤシライスは恋の味」

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「ちょっと紫苑。余計なこと言わないでよ」  亜利紗が赤い顔で、友人を軽く小突く。  紫苑は目だけで笑って無言だった。   意外にも、LuZのこのツートップは仲が良い。  社長の一砥にも臆せず物を言う亜利紗は、実家が元大名家という名門の家柄だった。  一人娘の彼女は祖父母にも両親にもとにかく溺愛されており、本来なら高蝶の人間がモデルをするなど言語道断な話だが、大学を卒業するまでの社会勉強の一貫として期間限定で許された。  さらに彼女の祖父、高蝶泰聖(たかちょうたいせい)は月光堂グループの大株主であり、一砥の祖父、剛蔵とも親交が深い。  それゆえの彼女だけ許される高飛車ぶりだが、彼女が仕事上で実家の名前を持ち出したことはない。  生意気なことは間違いないが、現場ではプロに徹する彼女だからこそ、一砥はそれなりに尊重し多少の態度の悪さも許している。  そんな亜利紗のある意味守り役をしているのが、もう一人の人気モデルである紫苑である。  彼女は年齢も亜利紗より二つ上だったが、この業界が長いこともあり、すでにモデルとしても業界人としてもベテランの風格がある。     
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