第一話「ハヤシライスは恋の味」

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       *******  午前二時。  一砥はさきほどのガールズバーに戻り、店の裏口から目当ての人物が出て来るのを待っていた。  世間知らずの二代目アパレル社長は、適当に飲ませて勝手に喋らせて、二時間前にタクシーに押し込んで帰らせた。  そんなことより彼は、どうしても確かめておきたかった。 (俺の見間違いでなければ、あの子は……)  本当なら疲れきった体を、さっさと自宅のベッドに横たえて休みたいのが本音だが、もし自分の勘違いでないのなら、今日の“これ”は看過出来ない問題だ。  店の営業時間は午前二時までとなっていたが、後片づけなどがあればもう少し遅くなるかもしれないな……と彼が考えた矢先、“彼女”が店から出て来た。  すでにバーテンダーの制服から地味な私服に着替え、化粧も落としている。  そうしているのを見ると、やはりあれは人違いではなかった、と一砥は確信を持って相手に近づいた。 「おい」  いきなり後ろから声を掛けられて、花衣はびっくりして振り向いた。  そして相手の顔を見とめ、「雨宮さん……」と呟く。 「なぜ君が、あんな店で働いているんだ」  挨拶もなく問われて、花衣は「えっ……」と声を途切れさせた。 「叔母さん達は知っているのか。姪があんな風営法違反の店で水商売やってることを」 「…………」  無言の花衣に、一砥は厳しい声で問うた。 「どうなんだ。あのバイトを、叔母さん夫婦は知っているのか」 「それは……」  花衣が顔をうつむかせたのと、店から別の店員が出て来るのは同時だった。 「あれ、花衣ちゃん?」  声を掛けられ、花衣はハッとして一砥の腕を掴み、「ここじゃ話せません」と真剣な表情で告げた。  仕方なく一砥は、すぐ近くに停まったタクシーを掴まえた。 「お疲れ様でした」  花衣は声を掛けて来たスタッフに笑顔で挨拶し、一砥が乗り込んだタクシーに自分も急いで乗った。 「出して下さい」  花衣が急かすように言った。  少し考えた後で、一砥は自宅住所を運転手に告げた。  >>>第二話に続く
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