第一章 いなくなった猫

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「深雪!」 もうすっかり日暮れです。もしかしたらコウタに何かあったのかもしれません。私はいてもたってもいられず捜しに出ることに決めました。だって、脱走癖があるって言ってもこんな時間まで帰ってこないなんて。もしかしたらどこかで迷ってしまってお腹を空かせているのかもしれませんし、考えたくはありませんが交通事故に遭って動けなくなっている可能性だってあります。もしそうなら最悪・・・。それはとんでもないことです。今日から一人でベッドに入らなければならなくなったら一体どんな夢を見て眠れるというのでしょうか。父でも母でもなくて、いつだって私の寝床に入り込んでくる可愛い奴なんです。コウタがいなくなっちゃったら、そんな広いベッドには困ってしまいます。湯たんぽみたいに温かいコウタ。私が見つけてあげなくちゃ。きっとコウタだって帰りたがっているに違いないんです。母のように悠長に構えてなんていられません。 「ごめん、ちょっとそこらへん一周して捜してくるから!先にご飯食べてて」 「ちょっと、深雪!」  大丈夫、私はコウタの行きそうなところは大体分かっているんです。前にも何度か迎えに行ったことがあるんですから。この町は本当にのんびりしていて、公園だとかちょっとした遊歩道の奥だとかには案外に野良の動物たちが住んでいます。だから、万が一喧嘩したり虐められたりして怪我をしていなければいいのですが・・・。そして車やバイクだけは本当にやめて・・・。ううん、きっとそんなわけはない。大丈夫。きっと大丈夫に決まっています。ただどこかで呑気に遊んでいるだけなのでしょう。この間は学校の校庭に入り込んでいたところを捕まえました。今日はどうでしょう。
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