第一章 いなくなった猫

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 この時間でも部活動の生徒たちは頑張っているものです。けれど、コウタはいませんでした。そうですね。こんなにわいわいと人の声が飛び交っているのですから。それに私が物珍しいのかしら。男の子たちが無遠慮な視線を投げてきて何だか落ち着きません。  続いてやって来た神社にもコウタは見当たりませんでした。ちょっとした高台に建つ社殿も鮮やかな氏神様でして、ちょっと似た子も見かけてどきっとしたのですが違いました。よく見たら私のコウタはこんなに痩せぎすではありません。こんもりとした小山の境内にはやっぱり野良猫たちが住み着いていて、三毛に黒に灰色のぶちちゃんにと色々いましたが今は構っている場合ではありません。お社へ簡単に手を合わせてさようなら。ここのお鈴は高いところにぶら下がっているので私では手が届きません。 「コウタが無事でいますように。早く見つかってうちに帰れますように」 さて、こうなるとあと残ったのは河原でしょうか。見下ろした視界一杯に流れる大きな川の両側には広々とした河原が広がっています。まさか橋を渡ってはいないでしょうからきっとこちら側のどこかで遊んでいるに違いありません。前の前くらいに脱走した時はサッカーのグラウンドで見つけました。今日もそこにいるといいのですが。 「コウター!コウター!!私だよ。もう帰ろう。コウター・・・」  辺りはすっかり真っ暗です。丈の伸びた草が繁って所々に陰のような藪を作っています。川向こうには工場の明かりが綺麗です。私ももうくたくたです。コウタはどうしちゃったんだろう。もしかしたら入れ違いでうちに戻っているのでしょうか。それだったらどんなにいいでしょう。でも、もしもそうじゃなかったら・・・・。どこかで帰れない状態になっていたら。 「コウター!」 不覚にも目に涙が滲みかけたときでした。コウタの声が聞こえました。コウタです。私が聞き違えるはずがありません。 「深雪―!」
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