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だがしばらくして、次の蘭子先生の言葉が室内の和やかな雰囲気を奪い去った。
「さて、弥沙のことはよくわかった。次は丹波のことを聞かせてもらおう。最近、変わったことはないか?」
聞かれた頼人は、ドキッとした。
見れば、皆、頼人の方に神妙な面持ちで見つめている。
「変わったこと、ですか?」
「そうじゃ。なにか悩みがあるだろう。たとえば、字のこととか」
胸がざわざわと動く。
頼人は、思わず助けを求めるように弥沙の顔を見ると、弥沙は「大丈夫」と頷いてくれた。
意を決して頼人は口を開いた。
「あの・・・実は、あの日から、字が思うように書けません」
頼人の最近の溜息の原因。
それは、字が書けないことだった。
普通に書く分には平気なのだが、心のままに書こうと筆を取ると、手首が締まり、書こうとするのをやめると、解放される。
何度も挑戦するが、結局思う字を書くことができない。今まで毎日書いていた大好きな筆を、とうとう、止めてしまったのだ。
「それは、辛い思いをさせてしまったな。すまない」
蘭子先生が頭を下げるが、頼人には訳が分からない。
「少しの間、封印させてもらった」
「封印?」
頼人は驚く。
「能力を使うということは、少なからず、体内にある鬼の血を活性化させ、鬼の気配をまとうということなのだ。先日、話したであろう。過度の使い過ぎは、暴走し鬼化する恐れがある、と。美弥子を呼び返す際、お前たち二人は能力を使った。特に、丹波は修行していない身。これ以上の使用は危ないと判断し、呪をかけさせてもらったのじゃ」
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