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棚に並んだたくさんの背表紙の中から、友人に聞いたタイトルを探し出して、私はそれを棚から抜き取った。……分厚い。私は決して読書嫌いではないけれど、それでもこの厚さには少し躊躇してしまう。
そんな私の心の声が聞こえたのだろうか、スマホの画面とにらめっこしていた友人が声を上げた。
「あ、短編集もあるって。これも人気らしいよ」
「……そういうこと、もっと早く言って」
「えーとね、そこの段にあるやつ……『宝石シリーズ』って言うんだって」
友人が指さした先には、私が手にしている本よりも若干薄めの本が並んでいた。
ミステリーというジャンルのせいなのか、彼の本の装丁は全体的に暗めの色味が多い。だが、『宝石シリーズ』というその短編集の一群だけは、どれも鮮やかな色合いのデザインで揃えられていた。
「タイトルに宝石の名前が入ってるから、『宝石シリーズ』なんだ」
「うん。最近始まった雑誌の連載も、『宝石シリーズ』の新作なんだって。最新号は即完売したってさ」
そういえば、水族館で彼に見せてもらったメールの中に、小説のタイトルらしきものが書いてあった気がする。あれにも確か宝石の名前が入っていたような……なるほど、このシリーズの続きにあたるのか。
棚からごっそりと『宝石シリーズ』を全巻取り出した私を見て、友人が目を丸くした。
「……ずいぶん豪快に大人買いするのね」
「まあ、利益還元というか。本が売れれば、それが次の作品に繋がるじゃない?」
本を抱えてレジに向かおうとした私の後ろを、友人がくすくすと笑いながら着いてくる。彼女の言いたいことは分かる……彼のファンだったわけでもないのに、いきなり山のように彼の本を買い込むなんて、確かに不可解な行動だと自分でも思う。
「……ひょっとして、好きになった?」
「何が」
「あの人のこと。ずいぶん仲よさそうにしてたしさ」
大学の頃からの付き合いだから、彼女は私のことをよく分かっている……もちろん、私の恋愛のことも、だ。今までの私だったら、ここまで時間をともにするような相手なら、とっくの昔に「彼を好きになったかもしれない」と大騒ぎしているはずだ。
……じゃあ、もう半年以上も顔を合わせている彼のことを、私はどう思っているのか。
少し考え込んで、私はようやく口を開いた。
「……分かんない。でも、彼のことを知りたいとは思う」
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