扉の向こう

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あれからも、彼の忙しい日々は続いているようだった。以前は週に一度は届いていた彼からのお誘いのメッセージも、よくて二週間に一度というところだ。 その代わりのつもりというわけじゃないだろうが、どうでもいい一言だけのメッセージが送られてくることがよくあった。 『生きてる?』 『君は?』 『死んでる』 『いや、生きてるじゃん(笑)』 こんな子供じみたやり取りでも満足しているなんて、以前の私じゃ考えられない。スマホの画面を覗き込みながら、友人はそう言って感心していた。……一体何に感心しているのか、私には理解できないが。 「そういえば、読み終わったよ。この前借りたやつ。ありがとね」 「今回のはどうだった?」 「とりあえず、帰りに駅ビルでよろしく」 友人が、バッグの中から本を取り出した……先日貸した、『宝石シリーズ』の中の一冊だ。 前に私がプレゼントしたのがきっかけで、友人はすっかり中村ショータのファンになったらしい。私が読み終わったものを片っ端から借りて、気に入ったら本屋に走る……というのを繰り返している。 「まあ、結局全部買ったんだけどね」 「……何だか、上得意のお客様を捕まえた気分だわ」 「あんた、いい営業になれるんじゃない?」 最近は友人と飲みに言っても、愚痴よりも本の感想に花が咲くことの方が多い。愚痴を聞きながらよりもよっぽど美味しくお酒が飲めると、友人は笑って言った。 予定がない日は、家でひたすら彼の本を読む。もともと読書が趣味の友人と違って、私の読むペースは決して早くはない。分厚い長編なんて、一冊読み終わるのに一週間かかることもある。 ……まあ、やたらとじっくり味わって読むからなんだけど。言葉選びから、文章の構成から、行間から、どうにか彼の考えていることを読み取れないかと……そんな気持ちで、私は毎日のようにページを捲った。 『こんばんは。私、リコちゃん。あなたの後ろにいるの』 仕事を終えて帰り支度をしている最中に、こんなメッセージが届いた。送り主は、今さら確かめるまでもない。 返信する余裕もなく、新しいメッセージが届いた。 『嘘』 ……子供か。とても三十路目前のいい歳した男のやることとは思えない。私がツッコミを入れようとするよりも一瞬早く届いた次のメッセージに、私は思わず固まった。 『オネーサンの会社の前にいる』
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