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「ねぇ、これ、美味しいね」
それは、その約束を果たす間もなく、突然訪れる。
「うん」
食べ物、だったものを、口に含んだまま。とても綺麗に、上手く笑った君の目に浮かぶその涙の意味に気が付かないふりをして、僕も笑う。
「すごく、おいしい」
もうきっとわかっていたはずなのに。
でも、どうしてもわかりたくなくて。
それを認めてしまえば楽になれると知ってはいるのだけれど。
「ねぇ」きっと、僕は怖かった。
「ごめんね」ひとりきりになってしまうことが。
「...どうしてあやまるの」君がこの世界から消えてしまうことが。
「きみこそ、どうして泣いているの」繋いだ手が離れてしまうことが。
ぽたぽたこぼれるふたりぶんの涙が
きらきら、ひかる。
さいごのときをおもい、ただ、ふりおちる。
「おねがいだから、泣かないで」
ああどうかこの手で。ありったけの愛と心を全部ぜんぶ。
もう抱きしめることすらできない、このてのひらのなかの
わたしの。大切な、あなたへ。
わたしの、いとしい。
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