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何の楽器が演奏できるんですか、と聞けば、「口笛と、ハミングと、あとドラム」夜から隠れるほど微かな声で教えてくれたので、私も密かに囁き返した。「ドラム?」
「そこに食いつくんだ?」
「口笛とハミング、楽器じゃないじゃないですか」
「突っ込んでくれた」
「そこはもう倉本さんの適当さでしょう。でもドラムだなんて、具体的な楽器が返ってくると思わなかったから」
「ほら、雑誌重なってるだろ。そこで練習してんだ」
「それで、実際にスタジオかどこかへ行って演奏するんですか」
「いんや。俺の本番会場もそこ」
「雑誌?」
「ん」
「なんだ」
と、安心して笑ったのは、倉本さんが変わらずに適当だったからだ。本当にドラムを叩けるよりも雑誌を指で叩いてるほうがずっと良い。それが倉本さんだ。私は彼の好い加減さが愛おしくて、羨ましかった。
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