monologue5

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「じゃあ、陸と仲良くなる為の場所に行くからついてきて。歩きながら話しましょう」 「でも郁也さんがまだ」 「大丈夫よ。少し待ってて」 郁也さんがまだ戻ってきていないのに勝手に移動するわけにはいかずに躊躇えば、麗さんはすかさずそう言って近くで談笑中だった男性に声を掛け、何かを耳打ちをする。 郁也……戻ってきたら……という言葉が断片的に聞こえてきたから、郁也さんが戻ってきたら何処かに向かった事を伝えて欲しいとお願いしてたのだろう。 耳打ちの相手は快く頷き、麗さんはすぐ戻ってきた。 「これで大丈夫よ。郁也の元にもすぐ帰してあげるから安心して。陸がどうして暗い顔をするのか、その原因も含めて話すからあまり人の多いここでは話せないの」 ごめんなさいと謝られて首を振る。 麗さんが伝言をお願いしてくれたとはいえ、郁也さんに直接告げずに移動する事はやはり迷ってしまう。だが、念押しするように「陸と仲良くなりたいでしょ?」と告げた麗さんの言葉に、ついて行く事に決めた。 麗さんに連れられて大広間を出る。受付を通り過ぎ、廊下を歩いた。途中、横目に料理を運ぶ給仕係の人が頭を下げて通っていく。 そのまま廊下を進んだ先でエレベーターに乗り込み、麗さんが最上階の20階のボタンを押す。 「陸はね、まだ物心もつかない内に自分の運命の相手を見つけてしまったから自覚がないまま育ってしまったの」 「陸さんが……」 「そう。しかもその相手がずっと傍にいて当たり前のように甘やかしてくれるから、自分が運命の相手をとっくに見つけたって事を忘れてしまって、自分の事を運命の相手を見つけられない井坂の欠陥品のように思っているのよね」 口調同様、麗さんは困ったような顔をするが、どういう事だろうか。運命の相手を見つけて、それを忘れてしまったからといって、どうして陸さんが自身の事を欠陥品だと思うのか理由が分からない。 すると不意に、郁也さんが俺の事を運命の相手だと紹介してくれた時のことを思い出す。 郁也さんのお母様も同じ言葉を口にして歓迎してくれたが、運命の相手というのは井坂家で、俺が思う以上の深い意味があるのだろうか。
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