monologue1

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でも、家族で仲良く住めるのはいいことだ。 いつだったか、偶然お孫さんがいる大家さんと話した時に、いつか一緒に住みたいと語られたことがある。 大家さんの言葉にそれを思い出したら、怒りや焦りよりも諦めの方が勝った。 「ありがとう。それじゃあ私はもう少し散歩を楽しむよ。気をつけて帰るんだよ」 「はい、大家さんも気をつけてくださいね」 流石に引き留める気力はなくて、力なく手を振って見送った。 ゆっくりとだが小さくなっていく大家さんの姿が完全になくなったのを確認した瞬間、限界を迎えてへたり込んだ。 男性に告白された時の比ではない大きなため息が出て、頭を抱える。 一度萎れた焦りが、大家さんがいなくなったことで再び一気にこみ上げる。 「あと一月で引っ越し先を見つけて引っ越しの手配までとか無理だ……」 何故きちんとポストを確認しなかった。していれば、こんなことにはならなかったのに。 今更後悔してもどうにもならないと分かっていても、どうしても思わずにいられない。 絶望に視界が暗くなってきている時だった。 「家を探しているのか?」 「探さなくちゃいけなくなって……え?」 交通の邪魔にならないよう退かないとと気力なく振り返れば、そこにいた人物に驚いた。 「家を探しているのなら俺の家に一緒に住まないか?」 一瞬、言葉の意味が分からなかった。 と、手を取られる。伝わってきた温度と感触にはっと現実に引き戻される。 「貴方の家に……?」 「ああ、俺の家に。安心してくれ、窮屈な思いはさせない」 ――いや、そういう問題ではないです。 慌てて頭をぶんぶんと横に振った。
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