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「ありがとう」
「……っ!」
優しく笑った男性の不意打ちのような表情にドキリとなる。
急に気恥ずかしくなって、奇妙な気まずさにそっと視線を逸らした。
「あ、あの……この近くの公園で話しませんか?」
「わかった」
男性は頷くが、なぜか一向に手を離してくれる気配がない。
「あの……手を離してもらえませんか?」
躊躇いながらも自分から言えば、男性は今思い出したような顔になる。
掴んだままの手を見たかと思うと、なぜか見つめたまま何も言わない。当然手はそのままだ。
「……君の腕は細いな」
「え?」
不意に小さな声で呟いた男性の言葉は上手く聞き取れなかった。
「すまない。君の腕だと思うと離し辛くてな。許して欲しい」
名残惜しそうに、そんな言葉が似合いそうな表情の男性になんと返していいか分からない。
冗談、だよな……?
――やめよう。考えるだけ困惑してしまう。
「じゃあ、行きましょう!」
慌てて、停めていた自転車を公園に向って早足で引いていく。
後ろから男性がついてきているのが気配で分かった。
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