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あれほどどす黒く濁って見えた煙は、日の光を浴び、驚くほど白くなぜか綺麗に見えた。
びしょびしょに濡れた袖で顔を拭く。
もちろん一層ひどく濡れただけだったが、涙はぬぐえたと思う。
そうだ思い出した。父親がなぜこの場所に来ていたのか。
忘れていた。
工場の煙を見るたびに、もっと頑張らないと、家族のために頑張ろうと思える。
だからここにきてはそれを再確認するんだ。
そう言っていたんだ。
あの日も、お母さんを傷つけた日もここに来ていたのかもしれない。
僕は工場の煙を睨みつけた。
「お父さんができなかった分、僕が、お母さんを守る。絶対に、傷つけたりしない」
僕の中でずっと漂っていた火葬場の煙は、工場のそれのように空に溶けていった。
僕は大急ぎで母親のもとに向かった。
そろそろ仕事も終わる時間だし、一緒に帰ろう。
そしていろいろな話をするんだ。
父親の話を。
そして、絶対にお母さんを守れるくらい強くなると、今度こそ伝えよう。
父親のことはきっとずっと嫌いだけど、それでいいのかもしれない。
まずは、びしょびしょの全身に驚かれ怒られるかもしれない。
僕は母親の心配そうな表情を思い浮かべながら、スーパーへと急いだ。
終わり
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