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母は父に依存していたのだと思う。
一見人当たりが良くにこやかな父は、友人も多く職場でも信頼されていたようだ。
ただ、これはありがちな話だが、お酒を飲むと人が変わった。
普段では考えられないほど暴力的になり、口も悪くなる。手を挙げることはなかったが、ときどき物に当たることでストレスを発散することがあった。
大きな音が鳴るたび僕は怯えたし、母は泣いてすがりついた。
やめて、お願い、私が悪いの、ごめんなさい、捨てないで。
大人しく控えめな母は、父が物を投げるたびに僕を庇った。
大声で怒鳴ることこそなかったが、母や僕に酷い言葉を浴びせた。
お酒が入らなければ良い父親だったのかもしれない。けれど、僕はどうしても手放しで好きになることはできなかった。それでも仕事を一生懸命頑張る父親として尊敬していたし、なにより母親が彼を心から好きなことは分かっていた。
それが恐怖の対象でしかなくなったのは、去年の夏だった。
昨日のことのように鮮明に覚えている。
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