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僕は雨で顔をぐちゃぐちゃにしながら自転車を走らせていた。
坂を上り、高い場所にある公園を目指した。
父親に遊んでもらった記憶のある唯一の公園だった。
良い思い出の場所に向けて、ひたすらペダルをこいだ。
怒りが、こみ上げてきた。
どうして勝手に死んでしまったんだ。これからやり直して良い夫に、良い父親になると、そう言っていたのに。
幸せな時もあった、楽しい時もあった、これからもそんな時間がつくれると思っていたのに、どこまでも身勝手な父親だ。
ふつふつとこみ上げる怒りのまま公園に着くと、僕は自転車を乗り捨て、公園の奥まで走った。
いくらか弱まってきた雨を顔に受けながら、父親とよくいたところに行く。
遠くに、空へと昇る煙を吐き続ける工場が見えた。
あれは、確かに父親が働いていた工場の煙だ。そんなことは分かっている。
それでも、どうしても、あの、父親が骨になる瞬間の、あの火葬場の煙に見えて仕様がない。
どこまでも上がっていくそれに、僕は、悔しくて悲しくて、父親が死んでから初めて泣いた。
「なんで死んじゃったんだ! お父さん、お父さんっ! お母さんを傷つけたままいなくなるなんて! なんて奴だ!! お前がいなくなったら、もっと、お母さんが・・・・・・悲しむんだよ」
僕は泥や水たまりも気にせず、地面に膝をついてうずくまった。
「楽しい時も優しい時もあったのに、嫌いなままいなくなるなんて・・・・・・あんまりだ! お父さん! 僕じゃお母さんを守れないよぉ」
すると、今までの天気が嘘のように雨はぴたっと止んだ。
顔を上げると雲の切れ間から光が差し込んできたのがわかる。
徐々に辺りが夕陽に照らされて明るくなってきた。
僕は立ち上がる。
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