雨が止む

5/6
前へ
/9ページ
次へ
 僕は雨で顔をぐちゃぐちゃにしながら自転車を走らせていた。  坂を上り、高い場所にある公園を目指した。  父親に遊んでもらった記憶のある唯一の公園だった。  良い思い出の場所に向けて、ひたすらペダルをこいだ。  怒りが、こみ上げてきた。  どうして勝手に死んでしまったんだ。これからやり直して良い夫に、良い父親になると、そう言っていたのに。  幸せな時もあった、楽しい時もあった、これからもそんな時間がつくれると思っていたのに、どこまでも身勝手な父親だ。  ふつふつとこみ上げる怒りのまま公園に着くと、僕は自転車を乗り捨て、公園の奥まで走った。  いくらか弱まってきた雨を顔に受けながら、父親とよくいたところに行く。  遠くに、空へと昇る煙を吐き続ける工場が見えた。  あれは、確かに父親が働いていた工場の煙だ。そんなことは分かっている。  それでも、どうしても、あの、父親が骨になる瞬間の、あの火葬場の煙に見えて仕様がない。  どこまでも上がっていくそれに、僕は、悔しくて悲しくて、父親が死んでから初めて泣いた。 「なんで死んじゃったんだ! お父さん、お父さんっ! お母さんを傷つけたままいなくなるなんて! なんて奴だ!! お前がいなくなったら、もっと、お母さんが・・・・・・悲しむんだよ」  僕は泥や水たまりも気にせず、地面に膝をついてうずくまった。 「楽しい時も優しい時もあったのに、嫌いなままいなくなるなんて・・・・・・あんまりだ! お父さん! 僕じゃお母さんを守れないよぉ」  すると、今までの天気が嘘のように雨はぴたっと止んだ。  顔を上げると雲の切れ間から光が差し込んできたのがわかる。  徐々に辺りが夕陽に照らされて明るくなってきた。  僕は立ち上がる。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加